インターネット講座 -(2)-
桃太郎と民俗学(2)


明治期は教訓として利用も 〜時代と共に物語 が変化〜


 桃太郎物語は1887(明治20)年、国定教科書国語読本に採用され る。当時の教育界は「桃太郎昔ばなし」を教訓性を含んでいると評価 し受け入れたのである。日清戦争が始まる1894年(明治27)年には厳 谷小波の「日本昔ばなし」(桃太郎)が普及。これが近代「桃太郎」の 原型といわれている。

 「鬼めらを退治して禍を除く」と鬼征伐に目的意識を与え、愛国心 高 揚のために利用された。これは教育勅語発布後の教育思想の影響 を受けていると考えられている。明治時代の質実剛健の思想を反映 してか、動物に与えるきび団子は1つから半分になる。そして1897(明 治30)年、修身童話「桃太郎」が出版される。

 大正時代は「リベラル」な時代の雰囲気を反映して、気は優しくて 力 持ちの桃太郎に変身。幼児絵本、童話など低学年向け読物となる。 侵略行為は分捕り行為に訂正される。きび団子は交換条件にせず自 主的に1つあげる。ここでは気前の良い桃太郎になる。

 1924(大正13)年、芥川龍之介が「桃太郎のもつ危険性」を見抜き 「桃太郎」を創作、この作品で「桃太郎は平和の島を侵略し動物たち も侵略者にする」。芥川龍之介はここで、平和を愛する鬼の立場から 人間をみるのである。この前年関東大震災が起こり、3年後の27(昭 和2)年には金融恐慌がおこり、同年芥川龍之介は自殺する。そして 29年、ニューヨークの株式大暴落で世界恐慌がおこる時期である。

 一方、民俗学者の柳田国男は33(昭和8)年、「桃太郎の誕生」で、 口 承文芸研究の新しい方法を桃太郎物語を通じて発表している。柳田 国男は「民衆が保存した過去(民間伝承)の研究を通じて、国民総体 が当面する現在の諸問題に正しい解答を見い出そうとする目的を 持っていた」(橋川文三著「柳田国男」)のである。この年日本は、昭 和恐慌(1930年)から抜け出すため国際連盟を脱退する。64年たった 平成不況と状況が似ているから不気味である。


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