「日本むかしばなし」桃太郎（１） 　むかし、むかし、山の中に一軒の小屋がありました。小屋のそばを き れいな小川が流れていました。毎日、おじいさんは山へしば刈りに、 おばあさんは川へ洗濯に行くのでありました。 　 　ある日のこと、おばあさんが川で洗濯していました。すると桃がおば あ さんの方へ流れてきたではありませんか。 　おばあさんはそれを川から拾い上げて食べてみました。それはたい そううまい桃でした。「おお、この桃はなんともうまいわい」とおばあさ んは言いました。「おじいさんにひとつ持って帰ってあげたいものじゃ. おじいさんもこんなうまい桃が食べられたらさぞ喜ぶことじゃろうなぁ」 　そしておばあさんは歌い始めました。 　「うまい桃はこっちさこい、まずい桃はあっちさいけ」 　おばあさんはこの歌を歌い終わるや、大きな桃が川上から流れてき ました。 　「まぁ、なんと大きな桃じゃろう」と言いながらおばあさんはそれを川 の 中から拾い上げました。「そのうえなんとうまそうなんじゃろ」 　おばあさんは桃を家に持って帰り、戸棚にしまっておきました。 　「今帰ったよ」とおじいさんは言いました。 　「今日、川でな、洗濯しとったんじゃ」とおばあさんはおじいさんに言 い ました。「そしたら何が起こったかわかるかや。大きな桃が流れてきた んじゃよ。おら、おじいさんと一緒に食べようと思ってな、家に持ち帰っ てきたんじゃぞ」 　それからおばあさんは戸棚のところに行き、桃を取り出しそれをお 膳 の上に置きました。 　「これはなんともりっぱな桃だ」 とおじいさんは言いました。「しかもとてもうまそうだ」 　おばあさんはおじいさんがそういうのを聞いてたいそううれしく思いま し た。それからおばあさんは桃を切る用意をしました。ちょうどその時、 桃をまっっぷたつに割れて中からかわいらしい男の子が出てきたで はありませんか。 　「おやおや」おじいいさんとおばあさんは驚いて叫びました。それか ら 二人は言いました。「この子は『桃太郎』と呼ぶことにしよう、桃から生 まれてきたんじゃもの」 　年老いた夫婦はその子にお粥と魚を食べさせてやりました。二人は そ の子をたいそう大事に育てました。 　桃太郎はどんどん大きくなっていきました。またどんどん強くもなっ て いきました。ひとくち食べるごとに大きく強くなりました。桃太郎はたい そう賢い子供で、いろいろなことをたいそう早く覚えました。 　桃太郎は間もなく丈夫で、賢く、りっぱな若者に育ちました。おじいさ んとおばあさんはそれはそれは大事にし、精一杯かわいがってやり ました。 　ある日、桃太郎は、おじいさんとおばあさんの前に出て、たたみの上 にきちんと座り、両手をついて、こう言いました。 　「鬼どもが都に住んでいる人たちを悩ませていると聞きました。おじ い さんとおばあさんとがたいそう大事に育ててくれたおかげで、私はこ んなに大きく、強くなりました。私は鬼が島へ行って、悪い鬼どもを退 治したいと思います。」 　それから、桃太郎はおばあさんの方を向いてこう言いました。「どう か 私に日本一のきびだんごを作ってください。」 　これを聞いたおじいさんとおばあさんは、一生懸命桃太郎に、そん な 危ないところに行くのを思いとどまらせようとしました。 　「どうしておまえを鬼が島などへ行かせることができようか」と二人は 言いました。「いけない、いけない、桃太郎、けっして行ってはならない ぞ。もしおまえがけがをするか、あるいは殺されでもしたら、私たちは どうなるのだ。」 　しかし、桃太郎は二人のことばに耳を貸しませんでした。 　「お二人は私を丈夫に育ててくれました。」と桃太郎は言いました。 「鬼 どもは私に指一本ふれることはできませんよ。」 　おじいさんとおばあさんはこれを聞いて、桃太郎を引き止めることは できないことがわかりました。そこで、桃太郎に十分注意するように何 度も何度も言ってから、二人は桃太郎の長い旅のしたくを始めまし た。 　おじいさんは新しいはちまきを桃太郎の頭にしめてやり、新しいはか まをはかせてやり、腰にはりっぱな刀をつけてやりました。それから 旗を持たせてやりました。その旗には「日本一の桃太郎」と書いてあり ました。 　おばあさんはたくさんのきびだんごを作り、それを包んで、桃太郎の 腰につけてやりました。用意がすっかり出来上がると、桃太郎は鬼が 島へと出発しました。 　ちょうど村のはずれまでくると、一匹の犬が「ワンワン」と吠えなが ら、 桃太郎のところにやってきました。そしてこうたずねました。 　「桃太郎さん、どこに行くのですか。」 　「私は鬼が島へ鬼どもを退治しに行くのだ。」と桃太郎は答えまし た。 　「お供しましょう。」と犬は言いました。 　「それでどうかきびだんごをひとつください。」 　「よし。一緒にくるがよい。きびだんごをひとつあげよう。これはおば あ さんが作ってくれたきびだんごだ。これを食べればおまえはたいそう」 強くなる。」 　桃太郎はそう言って、きびだんごをひとつ犬にやりました。 　桃太郎と犬とは山にやってきました。すると一羽のきじがやってきま し た。 　「桃太郎さん、どこに行くのですか。」 　「私は鬼が島へ鬼どもを退治しに行くのだ。」と桃太郎は答えまし た。 　「お供しましょう。」ときじは言いました。 　「それでどうかきびだんごをひとつください。」 　「よし。一緒にくるがよい。きびだんごをひとつあげよう。これはおば あ さんが作ってくれたきびだんごだ。これを食べればおまえはたいそう」 強くなる。」 　桃太郎はそう言って、きびだんごをひとつきじにやりました。 　桃太郎と犬ときじとは更に山奥にはいって行きました。すると一匹の 猿がやってきました。 　「桃太郎さん、どこに行くのですか。」 　「私は鬼が島へ鬼どもを退治しに行くのだ。」と桃太郎は答えまし た。 　「お供しましょう。」と猿は言いました。 　「それでどうかきびだんごをひとつください。」 　「よし。一緒にくるがよい。きびだんごをひとつあげよう。これはおば あ さんが作ってくれたきびだんごだ。これを食べればおまえはたいそう」 強くなる。」 　桃太郎はそう言って、きびだんごをひとつ猿にやりました。